事務所トピックス

医療過誤事件リレーエッセイ Vol.1

弁護士 海野 宏行

 当事務所の弁護士は、全員が医療過誤事件に取り組んでいます。皆、いろいろな種類の事件を経験してきましたが、これからは、それらの経験等から感じたこと、考えさせられたことをリレーエッセイで御紹介していこうと思います。

 まず、私が感じていることは、医療側が患者側に反論してくる場合(意図的なのかどうかはわかりませんが)、争点をあらぬ方向へずらそうとすることが、多いことです。例えば、普通だとあり得ないようなごく珍しい病態だった、と主張してきたり、通常の診断基準や診療の水準で考えれば、あり得ないようなことも、「否認」の主張をしてくることです。

 例えば、「胃瘻」といって、様々な原因で経口的に栄養が取れない場合に、 直接、「胃」に穴を開けて(これを瘻孔といいます)、栄養を流し込んで摂取していただく方法があります。ただ、時々、事故がありまして、胃と腹壁がぴったりとくっついていないと、栄養が胃に入らず、腹腔内に流れ込むことになり、気づくのが遅れると、腹膜炎となり、重症な場合は敗血症となって死亡してしまいます。

 従って、「胃瘻」を形成した場合には、造影剤を使って画像で確認し、造影剤が胃の中にきちんと入っていること、裏を返せば、腹腔内に造影剤の漏れがないことの確認が重要なのです。

 たった1枚の画像であり、まさしくそれは、「胃瘻」形成が万全であることの確認のために撮影されたものであって、明らかに、造影剤の漏れがわかるにも拘わらず、病院側は、「漏れていない」と否認して、裁判になってしまいました。

 裁判では、医療側が他にも争点を提出してきましたが、唯一の争点は、その1枚の画像の読影でした。結局、ある大学病院の放射線科の先生に意見書をお願いし、どのように造影剤が漏れているのかを画像上に図示していただきました。決定的な証拠です。結局、この事件は、患者さん側の勝訴的和解となりました。

 この画像の読影は、通常の医療水準があれば可能であり、病院側が医学的に否認する理由は、考えられませんでした。

 このような、争点が単純かつ明白な事件でも、あり得ないような「否認」の主張をしてくることがあるものなのですね。われわれ患者側の弁護士は、これからも争点のすりかえやあり得ないような「否認」に惑わされないよう、研鑽に努めて行かなくてはならない、とつくづく思いました。

更新日 : 2011年11月15日 > 事務所トピックス, 医療過誤